風邪をひいたり治りかけのときってなんで味覚が麻痺して何を食べても美味しく感じられないのですか?
我が家では舌が痺れるって呼んでますが、科学的な説明ができません。
視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚は「五感」と言われ、生活する上でいずれも重要ですが、もし味覚がなくなったら生きる喜びは半減するでしょう。食物の味は味覚のほかに臭い(嗅覚)、かたさや舌触り(触覚)、温度(冷温覚)、見た目のおいしさ(視覚)、噛んだときの音(聴覚)、食欲なども関係しますが、こちらでは狭義の味覚についてご説明致します。味覚は食物中の水溶性物質が舌などにある「味蕾(みらい)」という小さな器官に接触したとき生じる化学的感覚で、基本的な味の種類は甘味、塩味、苦味、酸味に分けられます。辛味は痛覚により感じますので、狭い意味の味覚とは違います。味蕾は舌と軟口蓋(上あごの奥の方)などにあり、人では約9000個ありますが、舌にある味蕾は茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭とよばれる舌の「しわ」のような器官にあります。舌の奥の方に直径2~3mmの一見「できもの」のように見える小さな出っ張りが7~15個ありますが、これが有郭乳頭です。よく「できもの」と間違えて外来に相談に来る方がありますが、誰にでもあるものなのです。「舌で味わう」と言われ、甘味については舌の先が敏感であると言われますが、実際には舌の奥と軟口蓋の方がより敏感です。砂糖をなめても舌を出したままにしておくより、口の中に引っ込めたときの方が甘さが良く分かると思います。味覚障害と言っても、味覚の減退や消失のほかに「塩味は分かるのに甘味が分からない」(解離性味覚障害)、「何も食べていないのに苦みなどを感じる」(自発性異常味覚)、「食べ物が本来の味とは違った味がする」(異味症)、「塩味を苦味や酸味などに感じる」(味覚錯誤)などもありますが、何と言っても味覚の減退や消失が多いようです。風邪や頭部外傷などで嗅覚が障害されても「味がしない」と訴えることがありますが、味覚が正常であることがあり、これは風味障害と呼ばれます。
味覚障害の原因は様々ですが、多いのは薬剤の副作用によるものです。非常に多くの種類の薬剤により味覚障害が起こります。次いで亜鉛の欠乏、心因性、風味障害、口腔疾患、風邪などが多いようですが、原因の分からないもの(特発性)もあります。女性は妊娠すると食べ物の嗜好が変わりますが、実際に味覚障害も起こります。その他、舌炎、糖尿病、甲状腺疾患、高血圧、ビタミンB2やビタミンAの欠乏、胃・十二指腸潰瘍、肝臓病、腎臓病、唾液分泌障害、放射線障害、脳腫瘍、脳出血、頭部外傷、顔面神経麻痺、中耳炎や中耳の手術などでも起こります。味覚に関係する神経は鼓索神経、大錐体神経、舌咽神経の三つですが、このうち鼓索神経と大錐体神経は顔の表情筋を司る顔面神経といっしょに走っていて、しかも鼓索神経は耳の中を通るので、顔面神経麻痺、中耳炎や中耳の手術の時に障害を受けることがあるわけです。亜鉛は味覚にとって重要な働きをしていて、亜鉛欠乏症はもとより薬剤性味覚障害でもその約半分の患者で血液中の亜鉛濃度が低下していますが、亜鉛が何故味覚に重要なのかというのは少し難しい話になります。亜鉛は多くの酵素の活性中心として働いており、タンパク質やDNAの合成に欠くことの出来ない金属なので、亜鉛が欠乏すると細胞の新生・交代が遅れます。味蕾の細胞も新生・交代が遅れるため味覚障害が起こるわけす。実際に亜鉛を服用することによって、特発性、亜鉛欠乏、薬剤性、全身疾患による味覚障害の70%程度は治ると言われます。しかし治療用の亜鉛製剤はわが国では市販されていないので、硫酸亜鉛やグルコン酸亜鉛が用いられます。味覚障害が起こって、早いものほど有効性が高いようです。亜鉛が非常に多く含まれている食品としては、抹茶、緑茶、煎茶、かき、数の子などがあり、次いで多いのは玄米茶、ココア、煮干し、タラバガニ、サザエ、テングサ、寒天、海苔、きなこ、辛味噌、カシューナッツ、アーモンド、胡麻、麩(ふ)などですので、亜鉛の欠乏による味覚障害の場合にはこれらを多く食べるように心掛けるのも大事でしょう。
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